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死後事務委任契約とは?おひとりさまの「もしも」に備える

2026.06.15
2026.06.15

「自分が亡くなった後のこと、誰が片付けてくれるんだろう」

ふと、そんな不安が頭をよぎったことはありませんか。
特にお一人で暮らしている方や、家族が遠方にいる方にとって、この問いは切実です。

葬儀の手配、役所への届出、家の片付け、携帯電話の解約。
亡くなった後に必要な手続きは、実は驚くほどたくさんあります。

こうした不安を解消する方法の一つが「死後事務委任契約」です。
生きているうちに、自分の死後に必要な手続きを信頼できる第三者にお願いしておける制度で、近年おひとりさまを中心に関心が高まっています。

株式会社goennでCPOを務め、葬祭カウンセラーとして多くのご相談をお受けしてきた新原秀崇が、この制度の基本から費用、注意点まで、初めての方にもわかりやすくお伝えします。

【この記事の結論】死後事務委任契約で押さえるべき5つのポイント

  • 死後事務委任契約とは、葬儀の手配・役所への届出・賃貸の解約・遺品整理など、亡くなった後の実務手続きを生前に第三者へ委任しておく契約のこと
  • 財産の分配は遺言書、手続きの委任は死後事務委任契約と役割が異なるため、セットで準備するのが理想
  • 費用の目安は、契約書作成に10万〜50万円、執行報酬に50万〜100万円、預託金に50万〜200万円
  • 依頼先は弁護士・司法書士・社会福祉協議会・NPO・民間企業から選べる。まずは地域の社協への問い合わせが第一歩
  • 契約書は公正証書にするのが鉄則(費用は約1万円)。親族へ事前に契約の存在を伝えておくことがトラブル防止の要
死後事務委任契約の全体像
死後事務委任契約は、亡くなった後の実務を生前に託す仕組みです。遺言書や任意後見との役割を分けると、備える範囲が見えやすくなります。

死後事務委任契約とは?遺言書・任意後見制度との違い

死後事務委任契約の基本的な仕組み

死後事務委任契約とは、自分が亡くなった後に発生するさまざまな手続きを、生前のうちに第三者へ委任しておく契約です。
法律上は民法の委任(第643条)および準委任(第656条)の規定に基づく契約で、口約束ではなく正式な法的効力を持ちます。

具体的には、葬儀の手配、納骨や散骨の段取り、役所への届出、賃貸住宅の解約や遺品整理など、死後に発生する実務的な手続きが対象です。
委任を受けた側(受任者)は、契約者の死後にその内容を実行する義務を負います。

おひとりさまだけでなく、「子どもに面倒をかけたくない」「自分の希望通りの供養をしてほしい」という理由で契約する方も増えています。

遺言書との役割の違い

「遺言書を書いておけば大丈夫では?」と思われるかもしれませんが、実はそれぞれカバーする範囲が違います。

遺言書死後事務委任契約
対象財産の分配・相続に関すること葬儀・届出・契約解約など実務手続き
法的拘束力法定遺言事項のみ拘束力あり契約内容に法的拘束力あり
葬儀方法の指定記載できるが法的拘束力なし記載した内容に従う義務が発生
向いている場面財産の行き先を明確にしたいとき死後の手続き全般を任せたいとき

遺言書に「散骨にしてほしい」と書いたとしても、相続人がそれに従う法的義務はありません。
供養の方法まで確実に実現したいなら、遺言書と死後事務委任契約をセットで準備するのが理想です。

任意後見制度との関係

もう一つ混同しやすい制度として「任意後見制度」があります。
3つの制度はそれぞれ「活躍するタイミング」が異なります。

制度活躍するタイミング役割
任意後見制度判断力が低下した後(生前)財産管理や生活支援を任せる
遺言書亡くなった後財産の行き先を指定する
死後事務委任契約亡くなった後実務手続きを任せる

任意後見契約は本人の死亡で終了します。
そのため、死後の手続きまでカバーしたい場合は、別途死後事務委任契約を結ぶ必要があります。

元気なうちに3つとも整えておくと、判断力が低下してから亡くなった後まで、切れ目のない備えになります。

死後事務委任契約で頼めること・頼めないこと

委任できる主な事務の一覧

死後事務委任契約で委任できる手続きは、想像以上に幅広いです。
主なものをカテゴリごとに整理しました。

葬儀・供養に関する手続き

  • 葬儀社の選定と手配、喪主の代行
  • 火葬許可の申請と火葬の実施
  • 納骨、散骨、永代供養の手配
  • 菩提寺や霊園への連絡

行政機関への届出

  • 死亡届の提出(死亡の事実を知った日から7日以内)
  • 年金受給停止届、健康保険・介護保険の資格喪失届
  • 世帯主変更届(該当する場合)
  • 運転免許証の返納
  • マイナンバーカードの返納(死亡届の提出で自動失効するため任意。相続手続きに個人番号が必要な場合は保管推奨)

各種契約の解約と精算

  • 賃貸借契約の解約、原状回復、鍵の返却
  • 電気・ガス・水道の停止手続き
  • 携帯電話、インターネット回線、サブスクリプションの解約
  • クレジットカードの解約
  • 入院費や施設利用費の精算

デジタル関連・その他

  • SNSアカウントの削除や追悼アカウント設定
  • メールアカウントやクラウドデータの整理
  • ペットの引き渡し
  • 親族や知人への訃報連絡

供養に関する委任は「具体的に書き残す」のがコツ

葬祭カウンセラーとしてお伝えしたいのは、供養まわりの委任こそ、できるだけ具体的に書き残してほしいということです。

「葬儀は任せます」「納骨もお願いします」のような曖昧な書き方だと、受任者が判断に迷います。
結果として、本人の意図とは違う形で供養が進んでしまうケースが実際にあります。
たとえば、散骨を希望していたのに合祀墓に納骨された、家族葬のつもりが一般葬の規模になった、といった齟齬です。

以下のような項目は、なるべく具体的に記載しておくと安心です。

  • 葬儀の形式(家族葬、直葬、一日葬など)
  • 希望する納骨先の名称や供養方法(永代供養、樹木葬、散骨など)
  • まだ供養先が決まっていない場合は「預骨で一時預かり→後日選定」という段階的な指定

特に供養先がまだ決まっていないおひとりさまの場合、「とりあえず預かってもらう」場所を契約書に書いておくだけでも、受任者がスムーズに動けるようになります。

最近では、当社goennが運営するタグル(taguru)のように、遺骨を送るだけで提携寺院に納骨してもらえる「おくるだけ」や、スタッフがご自宅まで伺う「おむかえ」といった送骨・預骨のサービスもあります。
契約書に具体的な選択肢を書いておくことで、受任者の判断の助けになります。

委任できないこと(遺言書が必要な領域)

一方で、死後事務委任契約では対応できない事項もあります。

  • 遺産の分配や不動産の名義変更(遺言書で対応)
  • 相続放棄や限定承認の手続き(相続人本人の判断が必要)
  • 婚姻・離婚・認知などの身分行為(生前の手続きが必要)
  • 訴訟代理や裁判手続き(弁護士への委任が必要)

「財産に関することは遺言書、手続きに関することは死後事務委任契約」と覚えておくとわかりやすいです。

費用の相場と依頼先の選び方

費用の内訳と相場

死後事務委任契約にかかる費用は、大きく3つに分かれます。

費用の種類内容相場の目安
契約書の作成費用専門家への依頼報酬+公正証書手数料10万〜50万円程度
死後事務の執行報酬受任者が死後事務を実行する対価50万〜100万円程度
預託金葬儀費用・遺品整理費用などの実費に充てる50万〜200万円程度

預託金は、あくまで実費に充てるための「預け金」です。
使わなかった分は、死後事務の完了後に指定の相続人や受遺者に返還されます。

公正証書にする場合の公証役場手数料は、死後事務委任契約の場合は通常の手数料の半額(10分の5)で計算される特別な扱いになっています。
報酬の定めがない契約で6,500円程度、正本・謄本代を含めると1万円前後が目安です。
2025年10月に手数料体系が改定されていますので、最新の金額は日本公証人連合会で確認してください。

依頼先の選択肢と特徴

死後事務委任契約は、以下の4つの依頼先から選べます。
それぞれ強みが異なるため、ご自身の状況に合った先を選ぶことが大切です。

依頼先費用感特徴
弁護士・司法書士・行政書士やや高め法的な専門性が高い。契約書の品質に安心感がある
社会福祉協議会比較的安い公的機関の信頼感。ただし全自治体が対応しているわけではない
NPO法人・一般社団法人中程度終活支援に特化。見守りサービスとセットで提供しているケースも
民間企業幅が広いパッケージ化されたサービスが多い。信頼性の見極めが必要

社会福祉協議会は費用が抑えられる反面、対応していない地域もあります。
まずはお住まいの地域の社協に問い合わせてみるのが第一歩です。

葬祭カウンセラーとしての私の経験から一つ付け加えると、供養に細かい希望がある方は、葬祭に理解のある受任者を選ぶことをおすすめします。
「散骨したい」「樹木葬がいい」といった希望を汲み取り、適切に手配できるかどうかは、受任者の経験や知識によって差が出ます。

契約までの流れと準備するもの

契約までの5ステップ

死後事務委任契約は、以下の流れで進めます。

ステップ1:委任したい内容を洗い出す
まずは「自分が亡くなった後にやってほしいこと」を紙に書き出してみましょう。
葬儀の形式、納骨先、解約すべき契約、遺品の扱い方、ペットの引き取り先など。完璧でなくて構いません。
頭の中にあるものを一度外に出すことが大事です。

ステップ2:依頼先を選ぶ
前のセクションで紹介した4タイプの中から、自分に合いそうな依頼先を探します。
複数の候補に相談して比較するのが望ましいです。

ステップ3:面談で委任内容をすり合わせる
依頼先と直接会って、委任内容の詳細を詰めていきます。
「ここまでは頼みたい、ここは不要」という線引きを明確にするのがポイント。
曖昧に「全部お任せ」とするとトラブルの種になります。

ステップ4:契約書を作成する
すり合わせた内容をもとに契約書を作成します。
公正証書にするのが安心(理由は後述)。

ステップ5:預託金の支払い・保管方法を決める
葬儀費用や遺品整理費用などの実費に充てる預託金の金額と保管方法を決めます。
信託口座で分別管理してもらうのが安全です。

公正証書にすべき理由

死後事務委任契約は、私文書(当事者同士で作る書面)でも法的には有効です。
ただし、実務上は公正証書で作成することを強くおすすめします。

理由は3つあります。

  • 改ざん・紛失のリスクがない。原本が公証役場に保管されるため、紛失しても再発行できる
  • 受任者が金融機関や役所で手続きする際にスムーズ。公正証書であれば、契約の存在を第三者に証明しやすい
  • 本人の意思確認が公証人によって行われるため、「本当に本人が望んだ契約なのか」という争いを防げる

費用は正本・謄本代を含めて1万円前後が目安です。
この金額で得られる安心感を考えれば、公正証書にしない理由はほとんどありません。

契約前に知っておきたい注意点とトラブル回避策

親族とのトラブルを防ぐには

死後事務委任契約で最も多いトラブルが、親族との対立です。
契約の存在を知らなかった親族が、受任者に対して「あなたは誰ですか?」「勝手に葬儀を進めないでほしい」と反発するケースは珍しくありません。

対策はシンプルです。
生前のうちに、親族へ契約の存在と内容を伝えておくこと
「自分はこういう契約を結んでいて、死後の手続きはこの人にお願いしている」と一言伝えておくだけで、トラブルの大半は防げます。

また、遺言書の内容と死後事務委任契約の内容に矛盾がないよう、両方を同じ専門家に相談して整合性を取っておくのも重要です。

業者選びで失敗しないための3つのチェックポイント

近年、終活サービスの需要拡大に伴い、死後事務委任を扱う業者は増えています。
その一方で、国民生活センターも消費者トラブルへの注意を呼びかけています。
以下の3点は必ず確認しましょう。

  • 預託金の管理方法は明確か
    受任者の運営資金と混ぜず、信託口座などで分別管理されているかどうか。
    業者が倒産した場合に預託金が戻ってこないリスクを避けるために必須の確認事項です
  • 契約の変更・解除の条件は明記されているか
    ライフステージの変化に合わせて内容を変更したくなることは当然あります。
    変更時の手数料や手続きが不明確な契約は避けましょう
  • 受任者(業者)が廃業・倒産した場合のバックアップ体制はあるか
    個人の専門家に依頼する場合は、その方が亡くなった場合の対応も確認しておくべきです

「安いから」という理由だけで選ぶのは危険です。
大切な死後の手続きを託す相手ですから、信頼性を最優先にしてください。

定期的な見直しが大切

契約を結んだらそれで終わり、ではありません。
人生は変わります。

  • 引っ越しをして住所が変わった
  • 施設に入所して賃貸を解約した
  • 納骨先の希望が変わった
  • 新たにペットを飼い始めた
  • 受任者との関係が変わった

こうした変化があるたびに、契約内容を見直す必要があります。
年に1回程度、受任者と連絡を取り合って内容を確認する習慣をつけておくと安心です。

よくある質問(FAQ)

Q. 死後事務委任契約は何歳から結べますか?

年齢制限はありません。判断能力があれば何歳でも契約できます。
ただし、認知症などで判断能力が著しく低下した後では契約を結べなくなるため、元気なうちに準備するのが鉄則です。
実際に相談に来られるのは50代〜60代の方が多い印象です。

Q. 家族がいても死後事務委任契約は必要ですか?

家族の有無に関わらず、検討する価値はあります。
遠方に住む家族に負担をかけたくない場合、家族が高齢で手続きが難しい場合、散骨や樹木葬など特定の供養方法を確実に実現したい場合は、家族がいても契約しておくメリットがあります。

Q. 死後事務委任契約はいつでも解除できますか?

はい、委任者はいつでも契約を解除できます(民法第651条)。
ただし、解除時の返金条件や手数料については契約書に明記されていることが重要です。
「解約したいのに返金されない」というトラブルを防ぐため、契約前に解除条件を必ず確認してください。

Q. 遺言書と死後事務委任契約、どちらを先に作るべきですか?

どちらが先でも問題ありません。
ただ、セットで準備するのが理想です。
財産に関する希望は遺言書に、手続きに関する希望は死後事務委任契約に、と役割を分けて整理すると漏れがなくなります。
同じ専門家に両方を相談すれば、内容の矛盾も避けられます。

Q. 預託金は返ってきますか?

死後事務が完了した後、使わなかった預託金は指定した相続人や受遺者に返還されるのが一般的です。
ただし、返還のルールは契約書に明記しておかないとトラブルの原因になります。
「余った預託金は誰に返すのか」を契約時に必ず決めておきましょう。

Q. 生活保護を受けていても契約できますか?

契約すること自体は可能です。
ただし、預託金の積み立てが困難な場合もあります。
一部の社会福祉協議会やNPO法人では、低所得者向けの死後事務支援を行っていますので、まずはお住まいの自治体の福祉窓口に相談してみてください。

まとめ

死後事務委任契約は、「自分の死後を自分で設計する」ための制度です。
おひとりさまはもちろん、家族に負担をかけたくない方、供養の希望を確実に叶えたい方にとって、大きな安心材料になります。

費用や依頼先は選択肢がありますので、まずはお住まいの地域の社会福祉協議会や、終活に詳しい行政書士・司法書士に相談するところから始めてみてください。

「もしものとき」を不安のままにしておく必要はありません。
今のうちに一歩踏み出すことが、ご自身の安心と、大切な方への思いやりになります。

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